愛と経済とブロックチェーン。あたらしい共感経済がはじまる。 [前編]

05/04/2018

──3月某日22時頃。ThinkSpace鎌倉へ、河崎純真(かわさきじゅんしん)さんが雨に濡れながらやってきた。この日は河崎さんが実践的に提唱する「共感経済」をみんなで知り、呑みながら語り合う場。これからの経済、その背景と未来。思いの丈を、お話しいただいた。ほぼ未編集でお届けする。

河崎です。よろしくお願いします。以前から禅や鎌倉に興味が非常にありまして、昨年のZen2.0への参加が、みなさんと知り合って行くきっかけとなりました。今日この場にもいらっしゃる三木さんが立ち上げられている、zenmonoというメディアでも紹介いただいたこともありました。13歳でエンジニアを始め15歳で家出をして、その後17でスタートアップをはじめ、5社立ち上げたうち、2社はうまくいって3社は失敗して…という10代半ばでした。15の時にスウェーデンに行ったんです。世界で最も幸福とされているエリアとして関心がありまして。その後アメリカでスタートアップの道へ。今、26になります。家がエホバの証人だったこともあり、なぜ人は生きているのか、神はいるのか。身近に宗教問題があった。16で高卒認定を取って、その後慶応の文学部で科学哲学科を専攻したんですが、最近は卒業することを卒業しようと思ってます(笑)。

社会を変えるのではなく、社会をつくる

科学哲学で学んだ上で、結論、「神がいるかいないかは分からない。どんな先端科学を使っても証明ができない。いるという証明も、いないという証明もできない。」という問題にぶち当たり、自然と仏教思想を信じていくんですね。禅への関心に繋がって行くんです。今は、社会起業家として、社会を変えるのではなくて、社会をつくろうとしています。そういうものを実現した未来像を作りたい。例えば今行なっている発達障害の人達にプログラミングを教えるということ。そこで最近言っているのが「かたよりを活かしあえる社会を作る」。

社会課題を解決しようと取り組んでも、社会構造が古いため、解決できない

発達障害の方が活躍できる社会を作ろうと思ったのですが、社会課題を解決しようと取り組んだ時に、これは解決できないなと気付くわけです。なぜか。社会構造が古いんです。例えば、1億人ぐらい住んでるビルがあるとする。柱が150年もの、仕組みもその当時のもの。そこで何が邪魔かって言うと柱が邪魔なんです。内装は多少いじれるんですけれども、配管も邪魔。壊せない。壊してしまうと住んでいる一億人が困ってしまう。政治、医療、介護、福祉、年金、あらゆる社会システム、みんな問題だとわかっているけれども壊せない。

どんな社会が良いかと考えた時に宗教ロジックから考えます。グローバリズムは西洋主義の押し付けだと感じているので、そういうものではなく、究極の社会構造ってなんだろうと考えた時に、禅的な社会構造があるなと思ったんです。「社会をつくれる仕組みをつくる」というテーマでZen-OSというものをつくりだしました。

古い社会を壊すのではなくて別の場所に新しい仕組みで社会をつくる

古いものは壊さない。新しいのものを求める人たちが集えばいい。もう50年すると今の建物が壊れてしまう。そうしたら避難すればいい。もっと言えばたくさんの建物があっていい。100個ぐらいの建物で新しい社会を作ればいい。短期的には何も変わらないのだけれど、長期的には変わっていくことが実現できる。そういう、誰でも社会を作れる仕組みというものをつくっています。Zen-OS、最近では名前をアップデートしてCommonsOSとしています。

Commons OS はブロックチェーンを利用して誰でも国家が作れる仕組み

事実、Commons OSでは国家運用が月10万円でできます。国家の定義はいろいろですが、行政がやっているようなことは一通りできます。エストニアは、国家予算が年間3億円ぐらいだと思うんですが、エストニアのベースはブロックチェーンではなくてJavaなんです。これはこれで古い歴史があって、ロシアが占領してた頃に、この地域を管理していた高官がロシア人だったんですよね。で、みんなロシアに帰ることになってしまって国を管理する人がいなくなった。当時の若者が国の作り方というものを、ドイツ、スウェーデン、アメリカ、イギリスに聞きに行き、ゼロから作っていくわけです。それが今のエストニアです。エストニアはもともと高い数学能力の背景もあって、言葉も難しいとされ言語背景も、いずれも強い。ロシアのかつての暗号部隊はほとんど今のエストニア人がやってたんじゃないでしょうか。91年当時、コンピューティングが急激に流行ってきたこともあり、若い彼らは最初から電子政府というものを作り始めた。元々政府があってそれをアップデートしたということでは実績としてはもう20年以上運用実績があるということです。彼らのプリンシプルとして13年以上古い技術は使わないということが書かれているものの、まだブロックチェーンベースにはなりきれていないというのが技術的な現状です。

ブロックチェーンベースに一気になりきろうとしているのが、カタロニアと、ドバイ、ベネズエラ、クルドです。最近ベネズエラ政府が仮想通貨を発行して、石油を担保としたペトロコインで3,000億円ぐらい調達しましたね。クルドは国を持たない世界最大の民族。人口3,000万人ぐらいいるけれど国を持っていない。自分たちの経済圏をつくろうとクルドコインというものを作って、自分たちのアイデンティファイをクラウド上に持つということを始めています。彼らには独立するという意思も理由もある。

世界で一番進んでいる活動はフェアコインというもの

フェアコインはカタロニアがやっているブロックチェーン。2013年ぐらいからやっていて、カタロニアの生協が軸となって、自分たちの通貨を軸として衣食住、仕事から保険から生活すべてを、独自の経済圏で実現するということをやっている。さらに彼らが特徴的なのは全部のツールがオープンソースなんです。一切外部のサービスは使わずに、経済システムを回している。そんなことがこれから一般化していくだろう。そう思ってCommons OSというものをやっているんです。

我々の提案も石川県加賀市では導入が決まりまして、日本初のブロックチェーンシティを目指しています。ちょうどリリースが出ました。海外ではすでに事例が出てきています。既存の国として先行的にやっているのがドバイ。国を挙げてやっています。彼らは本気でブロックチェーンを使って社会構造を作ろうとしています。中国や米国はブロックチェーンに関しては恐れているような印象ですね、これまでの通貨発行圏として。

既存のシステムとブロックチェーンとの組み合わせによる応用というものはものすごく効くと思っています。我々が今関わりを持っているのは、いわゆる30年後存在しないとされる消滅自治体とらないように、いろんな手を打って行こうとしている自治体。かなり興味を持って取り組む自治体ですね。もう一個が日本で言うと、総務省がマイナンバーを入れたように、電子自治体化をすすめようという話。紙とペンからデジタル化していきましょうという動きですね。この辺りは当然エストニアなんかはできています。何年で追いつけるかというと追いつくのは無理だと思ってます。小さな仕組みとしての自治体や行政であればまだ可能であると考えます。

松島) クルド人は国をまたぐクルディスタン構想というものを作るのが積年の夢なわけですよね。電子化であれば実現しうると。

おそらくCommon OSが実現できるとしたら5年くらいじゃないでしょうか。クルディスタンというものが電子の世界にあるという認識が確実になるのでは。コモンズ、共同体として。

ここまでの前提があって、なぜ禅かっていう話なんですが、分散型社会に必要とされるのは和の精神。これがないとすぐ問題が起きる。禅的な価値観というものは非常に重要なものだと思っていて、これがないと世界は滅亡すると思ってます。Open Zen Community Networkという名前で禅の活動を取りまとめているんですが、ブロックチェーンの文脈を見ると、馬車から鉄道、郵便からメール、銀行・国からブロックチェーン。これは近代資本主義から共感資本主義へという流れ。多層的、分散的な社会構造に変化していくというふうに考えてまして、未来予測としては2050年には、国が数十万個数百万個に増える世界。未来像として「アメリカや中国が世界政府として位置している世界」と、もうひとつが「NGOがITによってエンパワーメントされ、理性的に秩序が作られていく世界」。

19世紀20世紀の社会構造の変化っていうのは、アングロサクソン形式、今の国民国家資本主義ですね。社会システムが共産主義と対等しあって、次の時代はスーパーキャピタリズムが起きる。企業が国になったりだとか、国境を越えた企業が世界的な一つの国となる。数十万個できるうちの大半の国は今で言う企業。我々が実現したいものは、ダブルスタンダードになると思う「共感資本主義」。

我々は共感資本主義の経済圏を作りたいなと考えています。ジャック・アタリというフランスの哲学家思想家が、こう言う未来が来るだろうと言っているのだけれども、時代には波があって、国境があることが意味がなくなり、スーパーマーケット、世界政府ができるだろうと言っている。同時におきるのが超紛争。当たり前なのだけれどもどんどん分割分散されることで当然そこでの紛争というのは起きうる。その後に来るのが超民主主義。我々は直接そこへアプローチをしたいと考えています。

──湯川さん、終電のため離席とのこと。ひとこといかがでしょう。

湯川) 川崎さんのすごいところは今あるものを壊しに行ってないんですよね。外資系の金融の人なんかは新しい経済というものをを壊しに来る人もいる。

山下) 限界集落のようなオルタナティブな場所では非常に上手く使えるかもしれない。

湯川) 無理やり引っ張ってくる必要はないんですよね。どれだけ素晴らしい仕組みでもそこに乗っかる人がいるかですよ。無理やりでなく。最初にあった、発達障害の話、これも社会の仕組みによる問題だよね。

発達障害については、自分が発達障害だということと、うちの母もなんですね。非常にもったいないなと思っていて。発達障害という言葉がそもそもずれていない社会システムが彼らをうまく生かすことができないと知っています。我々は彼らのことをギフテッドと呼びます。素晴らしい才能があって多くの価値を提供してくれるはずなんだけれども、社会の方が抑圧してしまっている。

湯川) エリートである必要はないんですよね。生き生きと貢献できる社会というものはあると思うんです。

ここでブロックチェーンについての説明も少ししておきましょうか。

──湯川さんお気をつけて。河崎さん、少しのんでください。残れるみなさん、続けましょうか。

後半につづく