2018年2月17日開催された、鎌倉Lit.(かまくらリット)主催の『身体性と創造性をつなげる Running & Reading Retreat』第0回。「ストーリーを通して人間の感情を揺さぶり、意識を拡張してくれるLiterature(文学/文芸)を、自らの身体を通してハックし、アップデートを目指す」という新しい試みだ。
松島倫明さんと富岡麻美さんが発起人。ふたりとも楽しみながら文学/文芸と向かい合う時間を作りたいと企画したという。最初のアイスブレイクの中で参加者から、「静・動・静」の連続する変化の体験に期待しているという意見があった。この日、まさに「静・動・静」の変化による自身のアップデートを体感することになる。新しいLiteratureとの関係、「Running & Reading Retreat」とは。
はじめにいつもと少しだけ違う自分を知る、心地よい「静」の時間
松島さんのナビゲーションにより、メディテーションが始まった。軽く目を閉じて畳の上に目線を落とし、自身を整えていく。呼吸に意識を寄せて、吸った空気の流れを追う。外の景色に耳をすませ、もう一度呼吸に意識を寄せる。自分の心拍が聞こえる。
静かな変化に身をあずけながら、どれくらいだったろう。ゆっくりと息を吐き出して目を開ける。普段から座禅やヨガを行っている参加者にはいつもの、普段「静」の時間を持たない参加者には新鮮な、「静」の時間だ。
自然との距離がぐっと縮む中で、「動」の自分が見えてくる
メディテーションを終えたら、大町会館を出て走りだそう。10分ほどで名越切通しの大町口へ。この坂をぐっと登るともう山の中だ。「走る」というと、トレーニングを想像される方もいると思うが、レースでもトレーニングでもないのでマイペースに自分の体にあわせて。
トレイルランニングは自身と自然との対話を確認する「動」のメディテーションだ。自然の中を走れば、風景の変化に心が躍る。一歩一歩の感触を楽しむ。参加者どうしが声を掛け合う、コミュニケーションも交えた時間。「普段全く走っていないんです」という参加者にとっては特に、身体と山との掛け合いは新鮮だったろう。
走ったコースを簡単に記しておく。大町会館から名越切通し大町口へ。衣張山山頂で海を見晴らし、浄明寺方面に下山。岐れ道から雪の下エリア。東勝寺跡・腹切りやぐらを左手に見て八雲の小山へ。八雲の見晴台を経由して八雲神社へ。7、8キロくらいだろう。体感距離感は人それぞれというのもトレイルランの魅力だ。
読書あるいは執筆、動のあとの「静」へ
大町会館に戻り、「静」の時間へ戻る。参加者各自がその日持ってきたテキストと対峙する、静かな読書の時間だ。何人かはペンを走らせる。あとで聞くと、勉強をしていた方もいたようだ。多くの人が高い集中力を体感した。左脳で読む自分を右脳で読む自分が追いかけるような感覚を味わったという感想もあった。普段よく本を読む人も、よく走る人も、普段の自分とは少しバランスが違う新鮮さを感じたようだ。
この「静」の時間には懐かしい感じもあった。幼いころに友人宅で漫画を読んでいる風景のようでもあり、騒いだ休み時間の後の座学のような懐かしい感覚も思い起こさせる。この時間は、不思議な「静」の時間となった。
集いから、新しい身体と文学/文芸の関係が始まる
参加者のみなさんが読んだ本の共有と、意見交換が行われた。そこまでが連続したこの日の1セット。気づいていなかった感覚や過ごし方に出会えた時間となった。
鎌倉Lit.は2018年4月以降、毎回ゲストを招いて継続されることが決まっている。暖かい季節には海へ行って本を読むのもよいだろう。かつて「鎌倉文士」と呼ばれる作家たちが活躍したが、彼らは自然と身体との距離を、本能的に取り入れることのできる表現者だったのではないだろうか。現在の鎌倉で「身体性と創造性をつなげる Running & Reading Retreat」が開催された意味は大きい。鎌倉ギャザリングとしてもレポートしていきたい。
4月以降のゲストや今後の動向については、KAMAKURA Lit. のWebサイトで案内されている。
文・写真= 二藤部 知哉